2.特性の予測


 INTERGLAD Ver.6では、次の2つの方法で、特性の予測あるいは組成の設計が可能です。
@ 重回帰分析による予測
A 特性計算式による予測
なお、重回帰分析予測に取り込むことができるINTERGLADデータは、「ガラスの状態」がGlassに分類されたものに限定されます。


(1) 重回帰分析による特性値の予測

 コーニング社9863はUV光を良く透過し、微量のCoOとNiOを含有するリン酸バリウム系の着色ガラスですが、光学的特性の報告はありません。そこで、その組成に近い次の組成から成る透明ガラスを例に、光学的特性を予測する方法について述べることにします。

P2O5 : 70.03 mass%
BaO : 18.78
Al2O3 : 5.70
CaO : 5.49

 初期画面で[GO PREDICTION..]ボタンをクリックすると、小画面が表示されるので、[重回帰予測(Regression Analysis)]ボタンをクリックして重回帰分析のための検索画面を表示させます。
続いて、組成欄の「成分」カラムと%min欄、%max欄にそれぞれ、次のように入力します。
P2O5 : 50 〜 80 mass%
BaO :  1 〜 30
Al2O3 :  1 〜 15
CaO :  1 〜 15

これら4つの成分はANDで結ばれます。


次に、特性欄の「特性」カラムに、[2010 Refractive Index (Typical)]を特性小画面から選んで入れ、その次の行の行頭のANDプルダウンメニューをクリックしてORを選び、カラムに[2051Abbe Value (nd-1)/(nF-nC)]を入れます。(プルダウンメニューをANDのままにしておいた方が、求めようとする2つの特性予測値間の関係がより信頼できるため、望ましいのですが、この例の場合、ANDによる検索ではデータが全く集まらないことからORを用いることにします)

 続いて、検索画面右下の[SEARCH]ボタンをクリックして検索を実行します。暫くして検索結果リストが表示され、11の出典から26件のガラスが検索されます。



参考: 重回帰予測の検索結果リスト画面は、一般の検索結果リスト画面と同様に、組成の単位換算ボタン、特性の単位換算ボタン、[Information]ボタン、[Composition]ボタン、[Detail]ボタンがありますが、[Property]ボタン、[+,-,*,/]ボタン、[Additivity Eq...]ボタン、[Delete]ボタンおよび[Undo]ボタンはありません。データの削除は表中のチェックボックスで行い、表からの抹消はできません。 [Weight of Gold-Data]ラジオボタンの3または10を指定すると、Gold-Dataとしてランク付けされたデータが3倍または10倍に重み付けされた状態で重回帰分析を実行します。

 次に、この画面右上の[ANALYZE...]ボタンを押します。小画面が表示され、特性チェックボックスがチェックされていることを確認して[OK]を押すと、重回帰分析が行われます。各々の特性の重回帰予測値と残差(実測値―予測値)がリストに表示されます。 
 さらに、この重回帰分析の妥当性を評価するために、リスト左上のアイコン「検証」をクリックして検証画面を確認します。小画面が出るので、最初、[2051Abbe Value (nd-1)/(nF-nC)]のラジオボタンをクリックして[OK]をクリックします。実測値(INTERGLADデータ)が横軸に、予測値(重回帰予測)が縦軸にプロットされた検証画面が表示されます。大部分のプロットが直線y=xの近傍にほぼ集まっていますが、1点だけ離れた位置にあるので、このプロットにマウスのポインターを持って行き、右指クリックでダイヤログボックスを出し、[Detail]をクリックして詳細画面を見ます。
 このガラスが、Sb2O3:12mass%とPbO:6mass%を含む特殊な組成であることから、詳細画面を閉じた後、再び右指クリックでダイヤログボックスを出して[Delete]をクリックすることにより、このプロットを削除します。そして、[Try Again]ボタンを押して検索結果リスト画面に戻ります。リスト中の[Delete]チェックボックスがチェックされているガラスが1つあることを確認し、再び[ANALYZE...]ボタンを押します。新しい予測値と残差がリストに表示されるので、再度、アイコン「検証」をクリックし、小画面で[2051Abbe Value (nd-1)/(nF-nC)]のラジオボタンをクリックして検証画面を表示させます。プロットは、ややばらついてはいるが、寄与率R2が0.788と1に近い値であり、重回帰予測がほぼ信頼できることが分かります。


 その画面右下の[CLOSE]ボタンをクリックしてリスト画面に戻り、アイコン「検証」をクリックし、小画面で[2010 Refractive Index (Typical)]のラジオボタンがクリックされていることを確認して、[OK]をクリックします。屈折率の実測値と予測値がプロットされた検証画面が表示されます。プロットが直線y=xの近傍にほぼ集まり、寄与率R2は0.770と算出され、重回帰予測はほぼ信頼できるレベルと見なせます。

 そこで、その画面を閉じてリスト画面に戻り、任意のガラスの行をクリックして行の色をブルー反転させてから、画面左上のアイコン「組成の最適化」をクリックして、特性の予測を行うことにします。

 表示される小画面のTarget欄は空欄にしたままにして[OK]ボタンを押すと、組成最適化画面に変わります。その画面上部の重回帰式欄にあるNew組成入力欄に、予測したいガラスの組成値(P2O5:70.03、BaO:18.78、Al2O3:5.70、CaO:5.49 mass%)を入力して[CALCULATE]ボタンを押すと、画面中段の特性欄に、次の値が表示されます。

屈折率            : 1.534
アッベ数(nd-1)/(nF-nC) : 65.86

このようにして、特性値を予測することができます。




(2) 重回帰分析によるガラス組成の設計

 熱膨張係数が85×10-7/℃で、軟化温度700℃であるソーダアルミノ珪酸塩ガラスの組成設計を、重回帰予測により行ってみます。

初期画面右下の[GO PRE- DICTION...]ボタンをクリックして表示される小画面で、[重回帰予測]ボタンをクリックして重回帰分析のための検索画面を表示させます。
続いて、組成欄の「成分」カラム、%min入力欄および%max入力欄に次のように入力します。

SiO2 : 10〜90 mass%
Na2O : 1〜24 mass%
Al2O3 : 1〜24 mass%

 さらに、[SiO2]と[Na2O]と[Al2O3]の左側の[Main]チェックボックスをクリックして、三成分を主成分として指定し、その下右側の[Total of Main Components]プルダウンメニューから90%を選んで、三成分の合計が最大90%として指定します。
次に、特性欄の「特性項目」カラムに[1020 Expansion Coef.(Typical)]を特性小画面から選んで入れ、その下のカラムに[1116 Temp. at 1E7.6dPa・s(Sof. Point)]を入れます。これら2つの特性はANDで結ばれています。

 続いて、検索画面右下の[SEARCH]ボタンをクリックして検索を実行します。暫くすると検索結果リストが表示されます。検索件数は31件、出典数は19件と表示されます。





 この画面右上の[ANALYZE...]ボタンを押して重回帰分析を実行します。次に、左上のアイコン「検証」をクリックすると小画面が出るので、[Expansion Coef.(Typical)]のラジオボタンがクリックされていることを確認して、[OK]をクリックします。

 [Expansion Coef.(Typical)]の実測値(INTERGLADデータ)が横軸に、予測値(重回帰予測)が縦軸にプロットされますが、ほとんどのプロットが直線y=xの近傍に集まり、寄与率R2も0.9399と1に近い値であり、指定した系における重回帰予測が信頼できることがわかります。
 検証画面の右下の[CLOSE]ボタンをクリックして検索結果リストに戻り、再びアイコン「検証」をクリックして小画面を表示させ、今度は[Temp. at 1E7.6dPa・s(Sof. Point)]のラジオボタンをクリックして同様に検証画面を表示させます。この場合も、寄与率R2が0.8733と1に近い値であり、指定した系における重回帰予測が信頼できることが分かります。
 検証画面の右下の[CLOSE]ボタンをクリックして検索結果リストに戻ります。
  設計したいガラス(熱膨張係数が85×10-7/K、軟化温度700℃)に比較的近い特性のNo.1のガラスの行をクリックして行の色を反転させてから、画面左上のアイコン「組成の最適化」をクリックします。





 特性の目標値を設定する小画面が表示されるので、[線膨張係数]欄に、85(85×10-7/K)と[軟化点]欄に700(700℃)と入力して[OK]を押します。組成最適化画面が表示されるので、右手中央の[CALCULATE]ボタンを押すと、重回帰式欄のInitial組成の3成分が合計100%に按分されてNew組成欄に表示されるとともに、算出結果が特性欄とグラフに表示されます。

 グラフのプロットは、(Predictive値)−(Target値)であり、2点ともマイナス側にプロットされていることから、[線膨張係数]も[軟化点]も大きくなる方向に組成を変更する必要があることが分かります。

 そこで、重回帰式欄のNew組成入力欄のAl2O3を増やし、Na2Oを若干増やす方向で、先ずAl2O3欄の数値を増して[CALCULATE]ボタンを押し、プロットの動きを確かめながら、数値を繰り返し変更して計算を進めます。

 最終的に、SiO2=59.88mass%、Na2O=16.67mass%、Al2O3=23.45mass%で、目標値に近い[線膨張係数]=86.46×10-7/K、[軟化点]=693.1℃を得ました。







 組成最適化画面の右上の[Glass-Forming Region …]ボタンを押すと小画面が表示されるので、カラムをダブルクリックし、表示される成分リストから、SiO2、Na2OおよびAl2O3を入力して[OK]を押すと三角図が表示されます。設計組成値(New)が、ガラス化範囲内の組成になっていることが確認できます。


参考: 特性値は係数aiと成分量xiの積の総和(予測式y=Σaixi+k)で表されます。標準誤差、予測式の寄与率(R2)については、次章を参照ください。
参考: 特性の目標値を設定する小画面には、必ずしも目標値を入力する必要はありませんが、目標値を入力しない場合は、組成最適化画面のグラフに予測値の推移がプロットされません。
参考: 特性の予測値を大きくするには、その特性の係数がプラス側に最も大きい成分について含有量を増やせばよいでしょう。この例では、[軟化点]の場合の係数は、SiO2=−21.16、Na2O=−32.66、Al2O3=−11.97なので、[軟化点]については、係数が最も大きいAl2O3を増やせばよいことになります。一方、[線膨張係数]については、SiO2=−2.065、Na2O=+2.39、Al2O3=−1.333であり、最も大きい係数のNa2Oを増やせば良いことになりますが、[軟化点]にとってNa2Oを増やすことは逆効果となります。Na2Oを増やすことはほどほどにして、[線膨張係数]にとって二番手のAl2O3を増やすことになります。



(3) 特性計算式による特性値の予測

 例として、アルカリ亜鉛珪酸塩ガラスの平均分散を求めてみることにします。

 初期画面の[GO PREDICTION...]ボタンを押して表示される小画面で、「特性計算式による予測」ボタンをクリックすると特性計算式画面が表示されます。この右欄の[Mean Dispersion]の中からHugginsをダブルクリックして選び、左上の成分欄に、次の値を入力します。

 SiO2 : 59.48 mass%
 Na2O : 15.34
 ZnO : 25.18


 続いて、[CALCULATE]を押すと、即座に計算されて、1.029×10-2と算出されます。

 参考のため、検索画面で、上記組成値を入力し、特性欄で光学/屈折率/平均分散/平均分散F-Cの順で「平均分散F-C」を指定して検索を行います。検索されるガラス GB02-019152の平均分散は、1.014×10-2であり、かなり近い値であることがわかります。



参考: Ver.6に盛り込まれた特性計算式は次の14特性47式です。詳しくは第5章を参照ください。
密度(8式)、ヤング率(2式)、表面張力(4式)、線膨張係数(5式)、熱伝導度(2式)、比熱および平均比熱(3式)、転移点(1式)、粘性標準点(4式)、粘性(5式)、屈折率(3式)、アッベ数(3式)、平均分散(3式)、電気伝導度(3式)、直流体積抵抗率(1式)


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